レター # 205. 9月29日(水) 「しんじられな~い!」Part 2の話
それは久しぶりに春爛漫の気持ちいい日曜日のことだった。
やはり久しぶりに父の仕事の忙しさがちょっと落ち着いたスキをついて、ワイルドライフパーク(カンガルーなどが放し飼いにされている自然公園)にピクニックに行く予定の日曜日だった。出発予定は10時だったが、いつものように何だかんだとズルズル遅くなって、結局家を出たのは11時。ワイルドライフパークに着いたらすぐに弁当を食べたい気分になっていた。
向かったのはアデレードヒルズと呼ばれる小高い山の地域で、我が家から5分も走るともう山道に入る。「30分もあれば着くか」と車を出すと、通りの様子がいつもと違う。
沿道にはデッキチェアーに腰かけ、カメラを手にした人垣がところどころにでき、我が家の車の前後にはさながら昔の映画で見たようなクラシックカーが途切れることなく続いている。どうやら年に1回開催されるクラシックカーのお祭りの真っ只中に入りこんでしまったようだ。
クラシックカーの列は何キロもつながっていた。
中にはクラシック消防車までサイレンを鳴らしながら走っていた。
向かう方向が一緒だったため、ずっとクラシックカーの列の中をゆっくりと走ることとなり時間的にはロスになったが、それはそれで楽しいドライブだった。
だが、その時はまだ知る由もなかった。それは運命の出来事へのドライブだったことを……。
目的地のワイルドライフパークは実は今回が初めて。
助手席で地図を開く妻のナビを頼りに走っていたが、クラシックカーが大挙して走る光景に目を奪われ、さらにはイベントのために車は一方通行規制となっていた。
かくして、曲がる予定のポイントを誤って過ぎ去り、Uターンもできないまま、車はクラシックカーの波にのまれるが如く、前へ前へと流されていくのであった。
「このままではワイルドライフパークにたどり着けない」と、しばらくしてようやく一時停止。大回りだが何とか戻れる別の細い道を地図で再確認して、再び走り出した。
その道はダートロードだった。オーストラリアではよくある、舗装されていない砂埃舞うガタガタ砂利道である。おまけに地図で見るよりも実際の道幅は狭く、車がすれ違うのにやっとというところ。500m位走ると4WDの大きな車とすれ違い、「おー、こんなところに対向車がくるんだ」と少し驚きながらも「気をつけて走らないと」と思った、その矢先のことだった。
その数百メートル先の鋭角なカーブに差し掛かった瞬間、突然目の前に車が現れた。
しかも、何故かほぼ正面の位置でこちらに対面している。
「アッ!」
何故こんな広いオーストラリアのこんな田舎で人も殆どいないような場所のこのカーブで……。あと1秒こちらが遅かったら……。あと1分家を早く出ていたら……。1年に1回のイベントが何故今日……。
考えれば考えるほど、運命である。
きっと、今日ここで事故に遭うことは運命だったのだ。
相手の車が見えてぶつかるまで、多分1秒足らず。
咄嗟にハンドルを切ったが間に合わず、「ドン」と車の右前部分が破壊された。
幸いぶつかったところ以外は何も問題なく、誰も怪我はなかった。
こちらは細い道を左に寄りながら、30km程度のスピードで走っていたが、相手はカーブの道のほぼ真ん中を勢いよく突っ込んできたようだ。
怒るというよりは、「これをどう処理したらいいのか」と途方に暮れながら、車から降りると、向こうの運転手も茫然と車から降りてきた。30代前半くらいだろうか。「警察を呼ぼう」というと、「それは必要ない。お互いの情報を交換しあって、後は保険屋に任せるだけだ」と彼は言う。
とりあえず、名前、連絡先、免許証番号などの情報を交換した後、車内に戻って警察に電話を入れてみた。
すると、こんなやりとりに……。
「けが人はいませんか?他の交通の邪魔になっていませんか?」
「大丈夫です」
「では、警察は行きません。お互い連絡先などを交換して、あとは保険屋さんに報告してください」
「……」
(シンジラレナーイ!)
現場検証もせずに、事故の過失の比率を誰がどのように判断するというのだ!
第三者といえば、遠くから眺めるウシだけしかいない事故現場でどうやって!!
でもこのまま何も起こらないこの現場にいても仕方ないので、腑に落ちないままその場を離れることにした。車の破損は決して軽くなかったが、自走できる状態だった。
相手の車はこちらよりもダメージが大きく、自走できずにレッカー車を呼んでいた。
(自業自得だぞ!)
さすが、石頭のオト擁する我が家の車は頑丈なのである。
傷心のまま家にたどり着き、向かいのマーティンに愚痴をこぼすと「警察署に行って“ステートメント”を残してきた方がいい」と言われ、保険会社に事の詳細を報告した後、早速警察署に出向いた。
「交通事故のステートメントをしたいのですが」と申し出ると、
「No Worries」とオージーの決まり文句を言いながら警察が対応してくれた。
(こちらはNo Worriesではない…!)
事故の現場、状況などについての質問に一通り答えると、「これがあなたのステートメントの番号です。保険会社に伝えてください」という。
(保険会社は警察の一部なのか…!)
さらに、一応事故の状況の説明の足しにでもなれば、と持参した事故後の車の写真を見せると、特にステートメントに反映させる素振りもなく、返ってきたのは「正面衝突でなくてよかったですね」という“感想”。
そして驚きの極めつけは、保険の決済上、やはり事故の責任に対する比率は算定するのだという。当然のようにその元となるのは、事故当事者がそれぞれの保険会社に行った説明と警察に出したステートメント。つまり警察を含めた第三者の客観的判定材料はない中での判断になるのだ。
証人がウシしかいない状況で「私が悪うございました」と正直に話す奇特な人がこの世に一体何人いるというのだろうか?
モォー、シンジラレナーイ!!!
P.S. でもまあ、大事に至らず、車が自走できる程度に収まってよかった。ツイていたのかもしれない。あとは我が家の石頭車の1日も早い退院を心から祈るばかりだ。
やはり久しぶりに父の仕事の忙しさがちょっと落ち着いたスキをついて、ワイルドライフパーク(カンガルーなどが放し飼いにされている自然公園)にピクニックに行く予定の日曜日だった。出発予定は10時だったが、いつものように何だかんだとズルズル遅くなって、結局家を出たのは11時。ワイルドライフパークに着いたらすぐに弁当を食べたい気分になっていた。
向かったのはアデレードヒルズと呼ばれる小高い山の地域で、我が家から5分も走るともう山道に入る。「30分もあれば着くか」と車を出すと、通りの様子がいつもと違う。
沿道にはデッキチェアーに腰かけ、カメラを手にした人垣がところどころにでき、我が家の車の前後にはさながら昔の映画で見たようなクラシックカーが途切れることなく続いている。どうやら年に1回開催されるクラシックカーのお祭りの真っ只中に入りこんでしまったようだ。
クラシックカーの列は何キロもつながっていた。
中にはクラシック消防車までサイレンを鳴らしながら走っていた。
向かう方向が一緒だったため、ずっとクラシックカーの列の中をゆっくりと走ることとなり時間的にはロスになったが、それはそれで楽しいドライブだった。
だが、その時はまだ知る由もなかった。それは運命の出来事へのドライブだったことを……。
目的地のワイルドライフパークは実は今回が初めて。
助手席で地図を開く妻のナビを頼りに走っていたが、クラシックカーが大挙して走る光景に目を奪われ、さらにはイベントのために車は一方通行規制となっていた。
かくして、曲がる予定のポイントを誤って過ぎ去り、Uターンもできないまま、車はクラシックカーの波にのまれるが如く、前へ前へと流されていくのであった。
「このままではワイルドライフパークにたどり着けない」と、しばらくしてようやく一時停止。大回りだが何とか戻れる別の細い道を地図で再確認して、再び走り出した。
その道はダートロードだった。オーストラリアではよくある、舗装されていない砂埃舞うガタガタ砂利道である。おまけに地図で見るよりも実際の道幅は狭く、車がすれ違うのにやっとというところ。500m位走ると4WDの大きな車とすれ違い、「おー、こんなところに対向車がくるんだ」と少し驚きながらも「気をつけて走らないと」と思った、その矢先のことだった。
その数百メートル先の鋭角なカーブに差し掛かった瞬間、突然目の前に車が現れた。
しかも、何故かほぼ正面の位置でこちらに対面している。
「アッ!」
何故こんな広いオーストラリアのこんな田舎で人も殆どいないような場所のこのカーブで……。あと1秒こちらが遅かったら……。あと1分家を早く出ていたら……。1年に1回のイベントが何故今日……。
考えれば考えるほど、運命である。
きっと、今日ここで事故に遭うことは運命だったのだ。
相手の車が見えてぶつかるまで、多分1秒足らず。
咄嗟にハンドルを切ったが間に合わず、「ドン」と車の右前部分が破壊された。
幸いぶつかったところ以外は何も問題なく、誰も怪我はなかった。
こちらは細い道を左に寄りながら、30km程度のスピードで走っていたが、相手はカーブの道のほぼ真ん中を勢いよく突っ込んできたようだ。
怒るというよりは、「これをどう処理したらいいのか」と途方に暮れながら、車から降りると、向こうの運転手も茫然と車から降りてきた。30代前半くらいだろうか。「警察を呼ぼう」というと、「それは必要ない。お互いの情報を交換しあって、後は保険屋に任せるだけだ」と彼は言う。
とりあえず、名前、連絡先、免許証番号などの情報を交換した後、車内に戻って警察に電話を入れてみた。
すると、こんなやりとりに……。
「けが人はいませんか?他の交通の邪魔になっていませんか?」
「大丈夫です」
「では、警察は行きません。お互い連絡先などを交換して、あとは保険屋さんに報告してください」
「……」
(シンジラレナーイ!)
現場検証もせずに、事故の過失の比率を誰がどのように判断するというのだ!
第三者といえば、遠くから眺めるウシだけしかいない事故現場でどうやって!!
でもこのまま何も起こらないこの現場にいても仕方ないので、腑に落ちないままその場を離れることにした。車の破損は決して軽くなかったが、自走できる状態だった。
相手の車はこちらよりもダメージが大きく、自走できずにレッカー車を呼んでいた。
(自業自得だぞ!)
さすが、石頭のオト擁する我が家の車は頑丈なのである。
傷心のまま家にたどり着き、向かいのマーティンに愚痴をこぼすと「警察署に行って“ステートメント”を残してきた方がいい」と言われ、保険会社に事の詳細を報告した後、早速警察署に出向いた。
「交通事故のステートメントをしたいのですが」と申し出ると、
「No Worries」とオージーの決まり文句を言いながら警察が対応してくれた。
(こちらはNo Worriesではない…!)
事故の現場、状況などについての質問に一通り答えると、「これがあなたのステートメントの番号です。保険会社に伝えてください」という。
(保険会社は警察の一部なのか…!)
さらに、一応事故の状況の説明の足しにでもなれば、と持参した事故後の車の写真を見せると、特にステートメントに反映させる素振りもなく、返ってきたのは「正面衝突でなくてよかったですね」という“感想”。
そして驚きの極めつけは、保険の決済上、やはり事故の責任に対する比率は算定するのだという。当然のようにその元となるのは、事故当事者がそれぞれの保険会社に行った説明と警察に出したステートメント。つまり警察を含めた第三者の客観的判定材料はない中での判断になるのだ。
証人がウシしかいない状況で「私が悪うございました」と正直に話す奇特な人がこの世に一体何人いるというのだろうか?
モォー、シンジラレナーイ!!!
P.S. でもまあ、大事に至らず、車が自走できる程度に収まってよかった。ツイていたのかもしれない。あとは我が家の石頭車の1日も早い退院を心から祈るばかりだ。


この記事へのコメント
事故と言えば、こちらで車を運転しているときに、ウインカーを出さずに車線変更したり、ラウンドアバウトを曲がってきたり、右折、左折したりする車が多々あります。その時々にはっとすることもあります。
ともあれ、みなさんご無事でなによりでした。
車に関しては何かとありますよね、気になることが。「しんじられな~い!」の車編シリーズができるくらいに…。(でも、シリーズが続くほど身の危険も多くなりそうなので、なるべく流すようにしています)。
No Worries!
お互い運転には気をつけましょう!